魅力

 私はスカパラのファンであり、さらに北原雅彦さんの大ファンである。
 では、どこが好きなのか。
 それは第一には分かりやすさである。
 ジャズはある意味、限られた人の音楽である。例えば、すごいソロをとっても、その人にジャズに関する知識がなければ、何がすごいのか分かりにくい。ある意味では、(特にモダンジャズ以降の)ジャズは、演奏者のための音楽である。多くのソリストがその技術と新しい理論に基づく演奏を探究し、現在にいたっていることからも明らかだろう。ジャズはクラシック音楽が数百年かけて発展してきた歴史を、ほんの50年程で経験してしまった。だが、その弊害としてどんどん難解なものになり、心得のない人には大変分かりにくい音楽になってしまったのではないか。
 だが、スカパラはとにかく分かりやすい。
 スカは、60年代にニューヨークのジャズを聴いたジャマイカ人が自分達のリズムを加えて生み出した音楽といわれている。そのリズムは(本当にジャズをやろうとしたかは謎だが)、8分音符の裏拍に常に流れる、ンチャ、ンチャ...というリズムを基調にしていて、レゲエとも似ているが、基本的にスピーディーで、楽しい。
 スカパラの”トーキョースカ”も、様々な音楽のテイストが取り入れられているが、その基本はとにかく分かりやすいメロディーとダンスである。そして、とにかく楽しい。これが、スカパラをスカパラとしているひとつであることは間違いない。
 そして、北原雅彦さん。その音楽性の影響もあるのかも知れないが、非常に特徴的なソロを取る。トロンボーン奏者というと、どうしてもJ.J.の影響か、似通ったソロが多い気がするが、北原さんのソロは聴くとすぐに分かる独特の色を持っている。
 これは、スカパラの曲の短さによるのかも知れない。
 スカパラの曲は大半が5分以内。ジャズの曲とくらべると、非常に短く、ソロも16〜32小節が多く、極めて短い。ジャズではアドリブが主なためか、ゆっくりと物語を作っていき、クライマックスに高めることができるが、スカパラのような短いソロでは、とにかくすぐに客を引き込む必要がある。そのため、ある程度計算の上で(時には書かれた譜面通りに演奏することも)、いきなりハイテンションというソロを要求される。このため、北原さんのソロは非常に印象的なのかも知れない。

 そして、あの動き。
 スカパラのメンバー全員に言えることだが、ほとんど止まっていることがないというくらい、よく動く。その中でも、北原さんの動きはアクションが大きく、目立つ。そしてかっこいいのである。
 「トロンボーンはジャズではサックスにかなわない」(こんなページを持っている私は非常に悔しいのだが)、よくいわれる台詞である。確かにトロンボーンではあのジャズ特有のスピード感溢れるフレーズを自在に吹きこなす事は困難である。たとえ、J.J.Johnsonや中川英二郎さんのように、サックスに劣らぬテクニックを身につけたプレーヤーであっても、それは”劣らぬ”に過ぎない。越えたわけではない。さらに楽器としても低音が主で、同音域のテナーサックスと比較しても、フラジオなどを駆使できる分、後者にインパクトがある。高音のトランペットと比較しても、あの刺すような高音の響きほどのインパクトは望めない。これは、現在まで動かしがたい事実としてあった。そして、それが分かった上で、ジャズ奏者はサックスやトランペットに”劣らない”テクニックや音域を手に入れるために、日夜努力している。
 しかし、トロンボーンのよさは何か。それはトロンボーンそのものであり、あのスライドや音にあるといっていい。無理にトランペットやサックスをまねても無意味である。
 北原さんのプレーはそれを生かした一つの方法と言えるのだろう。
 とにかく、演奏中、楽器をはでに振り回す。スライドが前に出ている分、楽器を振り回せばそれだけ大きな半径を描き、インパクトが強い。現に、スカパラでも他のプレーヤーに比べて、北原さんの動きは目立つ。さらに、演奏においても、スライドアクションがはでになる程、客へのアピール度も強い。
 ジャズのビデオはつまらない。いや、それは吹奏楽などにもあてはまるが、管楽器の演奏は、ほとんど動きがないのだ。いかにすごいプレーを繰り広げても、サックスの指の動きと、眉間の皺ばかり映して2時間では、さすがに飽きる。これなら、CDを聴けばいい。テレビでの中継がほとんどない理由もこの理由があると聞いたこともある。テレビでよく見る交響楽は、指揮者、弦楽器、打楽器が常に動いていることからも頷ける。
 しかし、トロンボーンは管楽器で唯一、動きが大きい。これは欠点でもあるが、『みせる』という点においてはこの上ない利点となり得る。
 とにかく、スカパラの演奏を見てほしい。トロンボーンのよさを多くの人に理解してもらえるはずだ。わたしは、トロンボーンに興味を持ってもらいたい人には、スカパラのビデオを見てもらうことにしている。


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